Almaを迎えることが決まってから、我が家にやってくるまで約2週間ありました。
ケージを用意したり、ベッドやトイレ用品を揃えたり。
犬を飼うのは初めてなので、何を準備したらいいのか調べながら、
Almaが来る日を待っていました。

そんな中、母が何度も聞いてきました。

「私に懐くかしら。」

母は認知症だったので、同じことを何度も言います。
「懐くんじゃない?」
そう答えても、しばらくするとまた、

「私に懐くかしら。」

それを聞きながら、私は別の意味で驚いていました。

「えっ、懐かれたいんだ……」

あんなに動物が嫌いだったのに。
犬や猫を飼いたいと言えば、「飼うなら家を出ていく」とまで言っていた人なのに。
どうやらAlmaが来ることはちゃんと理解していて、
しかも、自分にも懐いてほしいと思っているらしい。
なんだか不思議でした。

そして、いよいよAlmaが我が家へやってきました。
母は、そもそも動物に触れること自体ほとんど経験がありません。
どう接したらいいのかわかりません。

「どうやって抱っこするの?」

なんて言っているのですが――
そんな母の戸惑いなど、Almaには関係ありません。

Almaはとにかく人懐っこくて、物おじしない、積極的な女の子でした。
母がどうしようかと考えている間に、自分から母のところへ乗り込んでいきます。

そして顔をペロペロ、ペロペロ。

母には、心の準備をする暇もありません。
気がつけば膝の上です。
そんなAlmaと過ごすうちに、母の口からこんな言葉まで出ました。

「こんなんだったら、もっと早く飼えば、お父さんも喜んだだろうなぁ」

父はすでに他界していました。
父も動物が好きでした。
私と同じように犬や猫を飼いたかったけれど、
母が大の動物嫌いだったので、ずっと諦めていた一人です。
あれほど動物を嫌っていた母が、Almaとほんの少し暮らしただけで、

「もっと早く飼えばよかった」

と言う。
人って、こんなにあっさり変わることがあるんだ。
そう思いました。

そして変化があったのは、母だけではありませんでした。
私自身も、念願だった犬との暮らしが始まって、初めて知ったことがありました。
Almaを抱っこしていると、ものすごく眠くなるのです。
それまで普通に起きていたのに、抱いていると、どんどん力が抜けて眠くなる。

「ああ、これが癒されるっていうことなのかな。」

そんなことを思いました。
念願だった犬との生活。
母も思いのほかAlmaを受け入れてくれた。
これから、母とAlmaと私の暮らしが続いていく。
そのときの私は、当たり前のようにそう思っていました。

でも。

Almaが我が家に来てから約1ヶ月後。
母は、大動脈解離で突然亡くなりました。
本当に、突然のことでした。

そして私は、少し前に母が言った言葉を思い出すことになります。
「私が死んだら寂しくなるでしょ。死んでから飼っても遅いわよ。」