「犬、飼ってもいいわよ。」

動物が大嫌いだった母から、まさかの許可が出ました。
認知症だった母の、そのときだけの思いつきだったのかもしれません。
次の日には忘れているかもしれない。
でも、私はずっと犬を飼いたかったのです。
せっかく開いたこの扉を閉めるわけにはいきません。

即行で犬探しを始めました。
とはいえ、「飼ってもいい」と言ったことを母が覚えている保証はありません。
犬を連れて帰ってから、
「そんなこと言ってない。嫌だ」
となったら大変です。
何より重要なのは、母に受け入れてもらえる犬を探すこと。

そこで考えたのが、トイプードル。
比較的においが少なく、毛が抜けにくいといわれ、初めてでも飼いやすい犬種。
私の中では、もはや一択。

そしてトイプードルといえば、レッドやアプリコット。
私はもともと茶系のワンコが欲しかったから、ちょうどいい。
「この子はどう?」
「あの子はどう?」
候補を探しては、茶色いかわいい子たちの写真を母に見せました。

ところが。
母から返ってきたのは、予想だにしなかったひと言。

「嫌よ、そんなの。白がいいわ。」

……えっ、白?!

考えてもいませんでした。
私の頭の中にあった犬は、ずっと茶色。
白い犬を飼おうと思ったことなど、一度もありません。

でも、このときの私にとって、最優先事項はただ一つ。
「犬を飼うこと。」

そして、そのためには、
「母が受け入れてくれること。」

母が白がいいと言うなら、ぜんぜん白でオッケーです。
迷いはありません。私の嗜好なんて二の次三の次。

こうして、それまで茶色いトイプードルばかり見ていた私の犬探しは、あっけなく、
「白いトイプードル探し」
に方向転換しました。

ですが、探してみるとなかなかいません。
当時ペットショップで見かけるトイプードルは、人気のレッドやアプリコットがほとんど。
白い子は、そう簡単には見つかりませんでした。

そんな中、ようやく見つけたのが、一頭のクリーム色の女の子。
真っ白ではないけれど、かなり白に近い。
「この子なら、お母さんもいいって言うかも。」
とりあえず一度、見に行ってみよう。
そう思って、開店して間もない早い時間にペットショップへ向かいました。

ところが、お店に着いてみると――。

そのクリーム色の子は、すでに別の家族に抱かれていました。
「あー、一歩遅かったか……」

そのときはまだ知りませんでした。

その子が、のちのAlmaになることを。
そして、ふとした瞬間に私が、
「この子にします」
と言ってしまうことも。